転職エージェントに流されないPT・OT・STの使い方

転職を考える前に

夜勤明けに更衣室でスマホを開いて、転職エージェントの登録フォームを途中まで入力した。「今すぐ転職したいですか?」という選択肢の前で、手が止まった。「今すぐ」ではないかもしれない。でも「このまま」でもない。その中間のどこかにいるのに、フォームにはそのための選択肢がなかった。

PT・OT・STが転職エージェントを使おうとするとき、この「フォームに合わない感覚」はよく起きる。急かされる、希望と違う求人が来る、担当者と話がかみ合わない——それは使う人の問題ではなく、構造上そうなっている。

この記事では、転職エージェントに動かされるのではなく、自分のペースで使い切るための準備と注意点を整理する。


転職エージェントが「使いにくい」のはあなたのせいではない

リハビリ職専門エージェントが扱う求人の9割は「臨床の常勤」

転職エージェントに登録すると、最初に届く求人のほとんどが病院・クリニック・介護施設の常勤求人だ。「訪問リハビリを探している」「福祉用具メーカーに転職したい」「週4日勤務を希望している」——そういう条件を最初に伝えても、返ってくるのは「近隣の回復期病院はいかがですか?」という案件だったりする。

これはエージェントの怠慢ではない。リハビリ職向けエージェントの収益は、求人を持つ法人から支払われる紹介手数料で成り立っている。手数料が発生する案件の大半が、採用ニーズの多い病院・施設の常勤求人だ。メーカーや週4日勤務、フリーランス支援は、手数料が発生しにくい、もしくはそもそもデータベースにない。

構造を知ると、「希望を伝えたのに全然違う求人しか来ない」という体験が腑に落ちる。

「希望と違う求人しか来ない」が起きる理由

担当者は、登録情報と保有求人をマッチングしてリストを作る。ここで使われるのは「スキルセット」「資格の種類」「希望エリア」「年収レンジ」だ。「この仕事では得られない体験を次の職場に求めている」というニュアンスは、データベース上に載らない。

登録フォームに書けない情報は、担当者に伝わらない。つまり「希望と違う求人しか来ない」のは、希望が正確に伝わっていないからではなく、そもそも伝えられる仕組みになっていないからだ。

エージェントを「急かされる」と感じるのは設計上の問題

「いつ頃を目安に転職を考えていますか?」「内定が出たらどのくらいで入職できますか?」——こういった質問が初回面談から出てくることが多い。早期に転職を決めてもらったほうがエージェントの回転率が上がる、という業態の都合がある。

急かされる感覚は、相手の悪意ではなく業態の設計から来ている。「なんとなく焦らされる」と感じたら、それはその感覚のほうが正しい。


登録前の15分が転職の質を決める

「転職理由」ではなく「次の職場で得たい体験」を先に決める

「転職理由を整理しよう」というアドバイスをよく見る。でも、転職理由を整理しても「今の職場が嫌だ」という話にしかならないことが多い。

先に決めるべきは、「次の職場でどんな体験をしたいか」だ。具体的に言えば「残業なしで定時に帰り、子どもを保育園に迎えに行く」「訪問で一人の利用者と長期間かかわる仕事がしたい」「月に一度は自分の勉強に使える余白がある職場」——こういった映像で見える場面。

これが先にあると、担当者との最初の面談で伝えることが明確になる。マイナビコメディカルの調査によれば、転職を成功させた層の67.1%が年収アップを実現している。年収だけに目を向けると見落とすのが、「得たい体験」の部分だ。

譲れない条件を3つ・捨てていい条件を3つリストアップする

「年収」「休日日数」「勤務地」「職場環境」「仕事の種類」「キャリアの方向性」——優先順位をつけずにすべてを希望条件として伝えると、担当者側で勝手に取捨選択される。

登録前に、譲れない条件を3つだけ選ぶ。次に、捨てていい条件を3つ選ぶ。この作業を15分でやっておくと、初回面談の質が大きく変わる。担当者が「この人には何を紹介すべきか」を正しく把握できるからだ。

職務経歴書は「やってきたこと」ではなく「できることの証明」として書く

「回復期病棟で5年勤務」「脳卒中患者の評価・治療を担当」——こういった書き方は「やってきたこと」だ。採用側が知りたいのは、「その人が自分の職場で何ができるか」だ。

「重度片麻痺患者の在宅復帰を年間〇件担当。退院前訪問から家族指導まで一貫して関わった」——これは「できることの証明」になる。数字と文脈がセットになると、書類段階での評価が変わる。


登録するエージェントの選び方——2〜3社が限界、それ以上は逆効果

リハビリ職専門エージェントと総合型エージェントの使い分け

リハビリ職専門エージェントは、臨床求人の数と質が強い。一方、「メーカー転職」「管理職候補」「地方移住」「週4日勤務」などは、総合型エージェントのほうが求人を持っていることが多い。

目的によって使い分ける。臨床内でのステップアップが目的なら専門型、臨床の外を見たいなら総合型、というのが基本の方針だ。ただし、登録社数は2〜3社が上限。それ以上に登録すると、面談・書類修正・求人確認の対応だけで週末が埋まる。

担当者に最初の電話で確認すべき3つのこと

初回面談の前、または最初の電話で確認しておくことが3つある。

  1. 「今すぐ転職しなくても登録・相談できますか?」
  2. 「希望に合わない求人が続く場合、紹介を止めてもらえますか?」
  3. 「担当者を変更することはできますか?」

この3つに「はい」と答えられる担当者は、使いやすい。答えが曖昧だったり、「まず面談しましょう」とかわされる場合は、そのエージェントとの相性を疑ってもいい。


使っている途中で「おかしい」と思ったときの対処

求人紹介を止めてもらうのは権利であり、連絡しないのが一番ダメ

「希望と違う求人が続いているけど、担当者に申し訳なくて言えない」——こういうケースで起きがちなのが、メールを既読スルーして自然消滅させること。担当者側には「反応のないユーザー」として記録されるだけで、関係は改善されない。

「今はペースを落としたい」「しばらく求人紹介は不要です」と一言連絡するだけでいい。言いにくければメールで一文でも構わない。それはクレームではなく、意思の伝達だ。

「この担当者は合わない」と思ったら担当変更を依頼できる

担当者との相性が合わないと感じたとき——「こちらの話をきちんと聞いていない」「求人を押し込んでくる感じがある」——そういう場合は、担当変更を依頼できる。

大手エージェントなら複数の担当者がいる。「別の担当者にお願いできますか」と電話またはメールで伝えれば、たいてい対応してもらえる。一度合わないと感じた担当者から、良い求人情報が届くことは少ない。早めに動くほうがお互いの時間を無駄にしない。


転職エージェントを使い始めるタイミング——PT・OT・STに正解はあるか

「今すぐ転職する気はないけれど」でも登録していい

PT・OT・STの正職員の最多年収帯は「400〜424万円」で、全体の18.8%を占める。民間給与平均の530万円と比較すると、100万円以上低い(マイナビコメディカル「PT・OT・ST白書2024年度版」)。厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」でも、PTの平均年収は約433万円だ。

また、PT・OT・STの81.0%が時間外労働ありと回答しており、73.9%の職場では賃金未払いの労働時間が存在する(同白書)。こうした構造的な問題は、自分の職場だけの話ではない。

転職を急ぐ必要はなくても、「今の水準が市場全体と比べてどこに位置するか」を知っておくことには価値がある。それだけを目的に登録することは、まったく問題ない。

転職を決める前に「市場価値の確認」だけを目的に使う方法

「転職するかどうかは決めていないが、今の自分が市場でどう評価されるかを知りたい」——この目的で転職エージェントを使う方法がある。

登録時のコメント欄や初回面談で「今すぐの転職ではなく、まずは情報収集のために相談したい」と最初に明示する。そのうえで、担当者から届く求人の年収レンジと条件を、今の職場と比較してみる。それだけで、自分の立ち位置が数字で見えてくる。

「転職する・しない」を決める必要はない。転職エージェントは、転職を決めた人だけが使うツールではない。


まとめ

転職エージェントは、うまく使えば市場情報と選択肢を短期間で集められる手段だ。ただし、向こうのペースに乗ったまま動くと、希望とずれた方向に進みやすい。

登録前の15分で「得たい体験」と「譲れない条件」を整理する。担当者との最初の接点で、自分のペースを伝える。おかしいと思ったら、すぐに連絡して修正する。

その積み重ねが、エージェントを「使われる側」から「使う側」に変える。

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