退勤後、更衣室でスマホを開く。開いているのは転職サイトではなく、副業の求人一覧。ただ眺めているだけで、結局閉じる。「言語聴覚士の私が副業できるのか」という問いに、答えが出ないまま。
このページでは、ST資格を持つ人が実際に選べる副業を7種類、整理して紹介する。資格を直接活かすものから、スキルを横展開するものまで。就業規則の壁も、確定申告の注意点も、あわせて確認していく。
言語聴覚士が副業を考え始める理由——構造的な収入の天井
平均年収444万円は「スキルに対して低い」という現実
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、言語聴覚士の平均年収は444万円前後(2023年版・常勤)。有効求人倍率は4.16倍(令和5年度)と、需要は高い。なのに給与が上がらない。
この矛盾は個人の問題ではない。診療報酬・介護報酬という公定価格の中で動く業界では、どれだけスキルが上がっても、施設が出せる原資に上限がある。つまり構造の問題だ。
副業を考えるのは、その構造への自然な反応だ。
副業を考えることは「裏切り」でも「欲張り」でもない
2018年、厚生労働省はモデル就業規則を改定し、副業・兼業を「原則容認」の方向に転換した。国の政策としてすでに後押しされている。
「本業に手を抜くのでは」という後ろめたさを感じる人もいるかもしれない。でも、副業で得た経験が臨床に戻ってくることも多い。医療ライターとして情報を調べ直すことで、エビデンスの読み方が変わった。研修講師を経験することで、患者説明が明確になった。そういうことが、実際に起きる。
まず確認すること——副業の可否と制度の壁の越え方
病院・施設の就業規則はなぜ副業を制限するのか
多くの医療・福祉施設の就業規則には「副業禁止」の条文がある。ただし、法的な強制力は限定的だ。民間企業の場合、原則として業務に支障が出ない範囲の副業を禁止することは難しいとされる。
例外は公務員。地方公務員法・国家公務員法で副業は厳しく制限されており、自治体病院勤務のSTは別途確認が必要だ。
まず自分の雇用形態と所属機関の種別を確認する。そこから始める。
副業を許可してもらうための「申請の現実」
就業規則に副業禁止の条文があっても、申請すれば通るケースは少なくない。「業務外・競合しない・本業に支障なし」の3点を明記した申請書を出すことで、認められた事例がある。
確定申告について一点だけ。副業収入が年20万円を超えた場合は確定申告が必要になる。このとき、住民税の徴収方法を「普通徴収」にしておくと、副業分の住民税が自宅に届く。本業の給与天引きと分離できるため、職場への露出を最小化できる。
STの資格・スキルを直接活かす副業3選
非常勤・スポット勤務(病院・デイサービス・訪問リハビリ)
最も収入の確度が高い選択肢。ST不足の現場では、週1〜月数回のスポット勤務でも歓迎される。時給の目安は3,000〜4,500円程度(施設種別・地域によって異なる)。
放課後等デイサービスは土曜・日曜の需要が高い。本業と曜日が重なりにくく、シフトの調整がしやすい。訪問リハビリ系の事業所は、早朝・夕方の時間帯を受け付けているところもある。
資格のある人間がそのまま稼働できる、最もシンプルな副業だ。
オンライン個別相談・言語指導(吃音・発声・発達支援)
Zoom等を使ったオンライン指導は、場所を選ばない副業の代表格だ。吃音・発声・構音・発達支援の分野で、STの専門性に対してニーズがある。
1回あたり3,000〜8,000円が相場感。ストアカ・タイムチケット・ coconala(各プラットフォームの利用規約を必ず確認のこと)といったプラットフォームを使うと、集客の仕組みをゼロから作る必要がない。
ただし「医療行為」と「相談・指導」の線引きは意識して守ること。診断・処方に踏み込まない範囲で提供する。
法人向け研修・嚥下指導(介護施設・訪問看護)
介護施設や訪問看護ステーションからの研修依頼は、単発で10〜30万円になることもある。嚥下機能、コミュニケーション支援、摂食リハビリといったテーマは、STの専門領域がそのまま需要になる。
依頼の入口はSNS発信が多い。Xやnoteで発信を続けていると、施設の管理者や看護師から「お願いしたい」と声がかかるケースがある。待つより発信する。そういう時代だ。
STのスキルを横展開する副業3選(在宅・時間自由)
医療系Webライター
医療・リハビリ分野の記事を書くライター業は、ST資格保持者への需要がある。専門職が監修・執筆した記事はSEOと信頼性の両面で評価されるためだ。
記事単価は2,000〜10,000円程度が現実的な範囲。最初の3ヶ月は単価より実績を積む期間と捉えると、入りやすい。月3〜5万円を最初の目標にするのが現実的だ。クラウドワークスやランサーズで案件を探せる。
外出不要・時間自由・臨床経験が直接武器になる。副業初心者が最初に試すのに向いている選択肢の一つだ。
オンライン講座・セミナー講師(一般向け)
「滑舌を良くしたい」「声を改善したい」という一般向けニーズは根強い。アナウンサー志望者、営業職、教師、YouTuberなど、STが普段接しない層からの需要がある。
ストアカやUdemyを使ったオンライン講座は、一度コンテンツを作れば繰り返し売れる。1回あたり1万〜3万円が相場感(参加人数・時間による)。最初は少人数のワークショップから始めると、フィードバックをもとに内容を磨きやすい。
SNS発信・ブログ(情報発信ベースでの収益化)
直接収益には時間がかかる。ただし、他の副業への入口になる基盤として機能する。
研修依頼が来るのも、ライター案件でオファーが届くのも、SNSで発信を続けている人のところに多い。XやInstagram、noteで「ST視点の情報」を継続的に出していると、信頼の蓄積が副業チャンスに変わる。収益化は後からついてくる。
副業を選ぶときの3つの軸——「今の自分」に合う出口を選ぶ
臨床経験年数と副業の相性
経験3年未満であれば、スポット非常勤かWebライターから始めるのが安全だ。非常勤は本業の延長線上で動けるため、失敗のリスクが低い。ライターは「書く力」さえあれば経験年数に関係なく始められる。
経験5年以上になると、研修講師・法人向け指導・オンライン指導の現実味が増す。「自分の言語化ができる」という感覚が出てきてからが、知識を売るフェーズの入口だ。
「時間の使い方」と「体力」で選ぶ
外出型(非常勤・施設研修)は収入効率が高いが、移動と体力を消費する。本業が忙しい時期に無理して入れると、両方が崩れる。
在宅型(ライター・オンライン指導・SNS発信)は収入の立ち上がりは遅いが、体力の消耗が少ない。深夜や早朝でも動ける。
最初の目標は月1〜2万円でいい。「副業で生活を変える」より「副業を継続できる」ことのほうが、最初は重要だ。小さく始めて、手応えを確かめながら広げていく。それが、長く続けられる人の共通点だ。
副業禁止の職場にいるなら、まず申請できるかを確認する。副業OKなら、今の体力・時間・経験年数を照らし合わせて、7つの選択肢の中から1つだけ選ぶ。全部やろうとしない。一点突破で始める。
モヤモヤを一人で抱えている方は、個別相談を受け付けています。


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