作業療法士の給与交渉|使えるセリフ例文集
転職エージェントから「内定が出ました」と電話があった夜、Yさんは画面に映る年収提示額をじっと見ていた。希望より20万円低い。「交渉できますよ」とエージェントは言った。でもYさんは、何を言えばいいかわからなかった。「ありがとうございます、よろしくお願いします」とだけ返信して、電話を切った。
作業療法士として給与交渉の場面に立ったとき、言葉が出てこない。そういう経験をしたことがある人は多い。これは意志の問題ではない。言葉を知らなかっただけだ。この記事では、OTが給与交渉で実際に使えるセリフを場面ごとに整理する。
作業療法士が給与交渉をしない理由は、能力の問題ではない
「医療職だから仕方ない」という思い込みはどこから来るのか
「患者さんのためにやっている仕事で、お金の話をするのは違う気がする」
こう感じたことがあるなら、それはあなただけではない。医療職全体に流通している、ある種の規範がある。「専門職はお金のために働くべきでない」「給与を主張するのは品がない」——そういった空気が、養成校時代から少しずつ刷り込まれている。
患者さんへの誠実さと、自分の給与を正当に主張することは、矛盾しない。でも構造として、この二つが対立するように感じさせる環境がある。問題は個人の性格ではなく、そういう文化のつくられ方だ。
交渉しない損失は年間で換算するといくらか
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2024年)によれば、OTの平均年収は約444万円とされている。一方、訪問リハビリと一般病院では年間約66万円の差が生じることもある。
10年間、交渉せず勤め続けるとどうなるか。単純計算で数百万単位の差が出る可能性がある。給与の相場を知らずにいることは、損をしていることすら気づかない状態だ。
給与交渉が通りやすいシチュエーション3つ
転職時のオファー面談——最も交渉が通りやすい瞬間
採用側がもっともフレキシブルに動けるのは、内定承諾前のこの瞬間だ。入職後は給与テーブルに組み込まれ、個別交渉の余地は一気に狭まる。
転職時の給与交渉の場面では、エージェントを経由している場合、エージェントに「希望額を先方に伝えてほしい」と依頼する選択肢もある。自分で直接言いにくければ、プロに任せる判断も正しい。
現職での昇給交渉——年1回の機会をどう使うか
評価面談は年に1回しかない。その場で急に切り出しても、上司は準備ができていない。面談の2〜3ヶ月前から「印象形成期間」として動くのが基本だ。
後輩スタッフへの指導、担当件数の増加、退院支援の関わり——こうした実績を面談前に上司の目に届けておく。「気づいてもらう」状態をつくってから、面談で言語化する流れが通りやすい。
資格取得・役職就任のタイミング——実績と連動させる
認定作業療法士の取得、チームリーダーへの就任、新規プログラムの立ち上げ。こうした「節目」は、年収アップを切り出す正当な理由になる。「このタイミングで改めて給与についてご相談させてください」という文脈がつくりやすい。
場面別——そのまま使えるセリフとフレーズ
転職オファー面談で使うフレーズ
「感謝→根拠→希望額→柔軟性」の4ステップで構成すると、相手に受け取られやすい。
ステップ1:感謝
「このたびはオファーをいただき、ありがとうございます。入職に向けてとても前向きに考えております。」
ステップ2:切り出し方
「ひとつご相談させていただけますか。給与の件なのですが。」
ステップ3:根拠と希望額
「現在の給与と、同職種・同年数の給与の相場を踏まえますと、年収○○万円を希望しております。」
ステップ4:柔軟性を示す
「もちろん、待遇全体のバランスも含めて柔軟に考えております。いただいたオファーとあわせて、ご検討いただけますでしょうか。」
この流れは、病院・老健・訪問リハビリのいずれの施設種別でも使える。施設によっては「規定のため変更不可」という回答もあるが、それはこちらの切り出し方の問題ではなく、施設側の制度の問題だ。
現職の昇給交渉で使うフレーズ
評価面談では、数値化できる実績を先に提示してから切り出す。
実績の提示
「この1年間、外来OT担当件数が前年比で○件増加しました。また、退院支援カンファレンスへの参加頻度も増やし、他職種連携の部分でも動いてきました。」
昇給交渉の切り出し方
「こうした取り組みを評価していただけている場合、給与の見直しについてご相談できますか。具体的には、月給で○○円〜○○円のレンジで考えております。」
担当件数、後輩指導の回数、研修への登壇実績——数字で語れるものは数字で語る。「頑張った」ではなく「○件対応した」という言い方に切り替えるだけで、印象が変わる。
言ってはいけないNG言葉とその理由
NG例1:「生活が苦しいので上げてほしいです」
理由:個人の家庭事情は交渉の根拠にならない。相手が応じる理由がない。
NG例2:「〇〇さんより給与が低いと聞いたのですが」
理由:他者比較は職場の人間関係を壊すリスクがある。裏付けも取りにくく、逆効果になりやすい。
NG例3:「もし上がらなければ辞めます」
理由:脅しに聞こえる。関係性を一瞬で壊す。この言葉は、本当に辞める覚悟がある場合にのみ、最終手段として使うものだ。
交渉の前に整えること——3つの準備
自分の市場価値を数値で把握する
転職求人サイトを3件以上開いて、同年数・同職種・同施設種別の給与帯を確認する。「希望額」は感情ではなく、相場から導く。病院・訪問リハビリ・老健それぞれで給与帯が異なるため、自分が比較すべき施設種別を絞ること。
実績を「数字と言葉」で整理する
面談前に、自分の仕事を棚卸しする。担当件数、退院支援に関わった件数、後輩OTへの指導回数、委員会や勉強会での発表——リストにして書き出す。これが交渉の「根拠」になる。
希望額は1点ではなく「レンジ」で持つ
- ベスト額:これが実現したら迷わず承諾する額
- 希望額:市場相場と自分の実績から算出した額
- 最低額:これを下回るなら再考する額
3段階で持っておくと、交渉の場で慌てない。「○○万円〜○○万円のレンジで考えております」という言い方ができれば、相手も検討しやすくなる。
交渉が通らなかったときの話
断られても関係を壊さない言い方
「承知しました。今回の件、ご検討いただけただけでも感謝しております。引き続きよろしくお願いいたします。」
この一言で、場の空気を戻せる。交渉は「断られたら終わり」ではない。次の評価面談に向けた布石を打ち直せばいい。
「この職場では上がらない」と気づいたとき
給与テーブルが固定で、役職のポストも空かない。昇給交渉を丁寧に行っても、制度として動かない職場がある。それは「あなたの価値が低い」のではなく、「その職場の構造がそうなっている」ということだ。
そう気づいたときに初めて、転職という選択肢が現実的な検討対象になる。給与交渉は、今の職場との戦いではなく、自分のキャリアを主語にして考える行為だ。
モヤモヤを一人で抱えている方は、個別相談を受け付けています。


コメント