業務改善を、ツール選びから始めない。

オフホワイトの背景に、ツールではなく仕事全体を見ることを表現した業務改善のイラスト

「これ、Power Automateで作れますか?」

もともと病院で理学療法士をしていて、そのあと介護の事業づくりや経営企画を経験し、いまは企業の業務改善やAI活用の相談を受けている。相談はだいたい、こういう形で始まる。

「毎朝やっている作業を、Power Automateで自動化できませんか」
「この集計、AIにやらせることはできますか」

打ち合わせの終わりの立ち話で出てくることもあるし、チャットに一行だけ飛んでくることもある。もう手段が決まった状態で来る。

悪いことだとは思っていない。むしろ、困っている人が自分で調べて、動画を見たり試したりして、ここまで考えてから声をかけてくれているということだ。

ただ、その場で「できます」とも「できません」とも答えないことが多い。「できます」と答えるのは簡単で、その場の空気も良くなる。でも、そのあとで作ったものが使われないことがある。

だから先に、このあたりを聞く。

  • その作業は、いつから続いていますか
  • 作ったファイルは、このあと誰が見ますか
  • 見た人は、それを何に使っていますか

ツールの話をする前に、仕事の話を一度する。順番の問題で、ツールを否定しているわけではない。

自動化したい仕事が、本当に必要とは限らない

業種が違っても、こういう流れはよく出てくる。たとえば、こんな仕事があるとする。

システムから数字を落とす。Excelに貼る。別のExcelの形式に整える。グラフにする。メールに添付して関係者に送る。

毎朝40分くらい。担当者は慣れているので淡々とやっている。そこで、自動化したいという相談になる。

ここで「どこを自動化するか」から考え始めると、ほぼ全部が自動化できる。技術的にはそれほど難しくない。

でも、配信先が5人いて、実際に開いているのが1人だったら、話は変わってくる。その1人が見ているのが3つの数字だけだったら、もっと変わる。

自動化すれば、この作業にかかっていた時間はほとんど無くなる。改善としては正しい。ただ、誰も見ていない資料が毎朝自動で届く仕組みは残る。しかも、自動で届くようになると誰も文句を言わなくなるので、止める理由が消える。たぶん何年か残る。

だから最初に聞くのは「どこを自動化するか」ではなく、「これは誰のために作られたのか」になる。

これが、意外と出てこない。前任者から引き継いだ、という返事が多い。「送るのをやめたら、誰から連絡が来ますか」と聞くと、少し考えてから「来ないかもしれません」と返ってくることもある。

そこまで分かってから、作るものを決めたい。

最初に見る6つのこと

相談を受けたとき、頭の中で順番に当てている問いが6つある。

1. なくせないか

まずここから。止めてみて、困る人がいるかどうか。

毎月の集計表、四半期ごとの報告フォーマット、定例の議事メモ。続いている理由が「前からやっているから」しかないものは、どこの職場にもいくつか出てくる。業種が変わっても、形は似ている。

ただ、この「なくす」が一番効くのに、一番やりにくい。やめる判断には責任がいるし、そもそも誰の持ち物なのかが分からないものも多い。「この資料、やめていいですか」と聞ける相手が見つからない、という状態になっている。

だから、いきなり廃止しなくてもいい。「来月だけ止めてみて、問い合わせが来たら戻す」でも、かなり分かる。止めたときに誰の声が上がるかで、その仕事の持ち主が分かる。

2. 減らせないか

なくせないなら、全部を同じ丁寧さでやる必要があるかを見る。

全件に二重チェックをかけている、という話はよく聞く。金額の大きいものだけ二重にして、残りは抜き取りにする。対象が半分になれば、自動化しなくても負荷はけっこう変わる。

線の引き方は、金額でも件数でも、間違えたときの影響の大きさでもいい。確認したいのは、「全部やる」と決まった経緯が今も残っているかどうかだ。昔一度トラブルがあって全件確認になり、そのまま続いている、という形になっていることがある。

量を減らすほうが、仕組みを作るより早く効くことが多い。

3. やり方を変えられないか

転記が出てきているときは、だいたいここに原因がある。

Excelで集めてから、あとでシステムに入れ直している。現場から紙やメールで来た内容を、担当者がまとめて入力している。各部署に配ったExcelが、戻ってくるときには少しずつ形式が違っている。

転記は、情報の置き場所が分かれていることの結果として出てくる。入り口を一つにできれば、転記はそもそも発生しない。難しいのはその入り口を一つにするほうで、そこは別の話になる。入力の順番を変えるだけで要らなくなる場合もある。

消えた作業は、自動化しなくていい。ここが、ツールを使わずに効く範囲として一番大きい気がしている。

4. 自動化できないか

ここでようやくツールの話になる。

向いているのは、手順が決まっていて、例外が少なく、頻度が高いもの。添付ファイルを決まった場所に保存する、決まった形式のデータをつないで表にする、といった作業だ。

逆に、例外の多い作業を自動化すると、例外処理の分岐がどんどん増える。作った本人しか触れない仕組みになりやすい。その人が異動したあと、誰も直せないまま動き続けてしまう。自動化の前に、例外をどれだけ減らせるかを見ておきたい。

作るときに一緒に決めておきたいのは、止まったときに誰が気づくか、誰が直すか、という話だ。ここが決まっていない自動化は、動いている間は便利で、止まった日に急に困る。

5. AIに任せられないか

AIが効くのは、入力に揺れがあるところと、下書きを作るところだと思っている。

問い合わせメールを読んで一次分類する。長い打ち合わせのメモから要点の候補を出す。既存の文章を別の相手向けに言い換える。このあたりは、最後に人が直す前提なら十分に使える。

逆に、答えが一つに決まる計算は関数でいい。わざわざAIを使う理由がない。

見るべきなのは精度だけではなくて、間違っていたときに直しやすいかどうかだとも思う。出てきたものを人が読んで直せる形になっていれば、精度が完璧でなくても業務に乗る。

AIは選択肢の一つで、順番としては5つ目に来る。最初には来ない。

6. 人がやる意味はどこか

最後に、残すところを決める。

たとえば、いつもと違う内容の依頼が来たときに、受けるか断るかを決めること。相手が急いでいるのか怒っているのかを聞き分けて、折り返しの電話で言い方を変えること。出てきた数字を見て、自分の名前で「これで出します」と承認すること。

こういうところは、人が持っていたほうがいい。

1から5をやるのは、この6のための時間を空けるため、という順番で考えている。空いた時間に何を入れるかが決まっていないと、改善したぶんだけ別の作業が入ってきて、結局何も変わらないことがある。

「AIで何ができるか」から始めると、見えなくなるもの

会議の要約をAIでやりたい、という相談は多い。

技術的にはもう普通にできる。録音して、文字にして、要点を出す。やれば喜ばれる。

ただ、その前に会議そのものを見ておきたい。

何を決める場なのか。決まったことはどこに書かれて、誰が追いかけるのか。そして、なぜ要約が必要になったのか。

「出られない人がいるから」という理由が出てくることがある。だとすると、効くのは要約ではなく、出席者を減らすことかもしれない。資料を先に配って、集まる時間を半分にするほうが早いこともある。

要約を作ると、会議の中身は変わらないまま、記録だけがきれいになる。それが必要な場面もあるので、悪いとは言わない。ただ、「要約が欲しい」の裏に別の困りごとが隠れていることは、かなりある。

「AIで何ができるか」から入ると、AIでできることの中から答えを選ぶことになる。選択肢が先に狭まってしまう。

何でも上流の課題にはしない

ここまで書くと、何を相談しても「それは本当に必要ですか」と返してくる人のように見えるかもしれない。

実際には、そうしていない。毎回これをやられると、相談するのが面倒になる。面倒だと思われた時点で、次の相談は来なくなる。

目的がはっきりしていて、作るものが決まっているなら、そのまま作る。「このファイルを毎朝この場所に置きたい」なら、置く仕組みを作ればいい。遡る必要はない。

一段上に戻るのは、こういうときくらいだ。

  • 似た相談が、別の人から何度も出てくる
  • 作っても使われない予感がする
  • 直したい作業の前後に、同じ手戻りが見える

上流に遡ること自体が目的ではない。遡るのは、そこに問題が生まれている場所があるときでいい。

小さな相談は、小さなまま受けない

小さな相談は、断らない。

ただ、言われたものをそのまま作ることはしない。先に見るのは、その作業の目的と、前と後だ。

このファイルはどこから来るのか。作ったあと、どこへ行くのか。そもそも何のために作られたのか。

一本だけでいいから、流れを端まで追ってみる。すると、頼まれた作業の二つ手前に原因があることが分かったりする。毎回フォーマットを直しているのは、その前の工程で入力の形が決まっていないからだった、というような話だ。

そのうえで、作る意味がはっきりしていれば作る。頼まれた作業そのものにかかる時間は変わらなくても、次に出てくる相談が変わる。

小さな相談は拒絶しない。でも、小さな作業のまま受けて終わりにはしない。このあたりの線を、いつも気にしている。

ツールを選ぶ前に、仕事を一度見る

まとめると、言いたいのはそれだけだ。

Power Automateは便利だ。AIも実務で使える段階に来ている。使わない理由はない。

ただ、ツールから入ると「それで何ができるか」の話になって、「その仕事が何のためにあるか」を飛ばしてしまう。飛ばしたまま自動化すると、要らない仕事が速く回るようになる。

なくせないか。減らせないか。やり方を変えられないか。自動化できないか。AIに任せられないか。人がやる意味はどこか。

この順番で一度見てから、ツールを選ぶ。それだけで、作るものはけっこう変わる。

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