OTが放課後等デイに転職する前に知る5つのこと
退勤のタイムカードを押した後、駐車場でエンジンをかけずにスマホを開いた。「作業療法士 放課後等デイサービス 転職」と検索して、また同じ求人ページに戻ってきた。何度目かのタブを閉じて、家に帰る。
迷っているのは、覚悟が足りないからではない。正直な情報がなかっただけだ。
放課後等デイサービス(以下、放デイ)は、2024年時点で全国22,643カ所(厚生労働省)。利用実人員は633,631人(2024年9月)に達し、今も拡大中の領域だ。OTへの需要は確かにある。ただし、病院とは構造が違う。その違いを理解してから動くのと、動いてから気づくのでは、消耗度がまるで異なる。
放課後等デイサービスで、OTは何をするのか
機能訓練担当者としての役割(評価・計画・実施)
放デイにおけるOTの主な立ち位置は「機能訓練担当者」だ。個別支援計画に基づき、子どもの評価をして、訓練内容を設計して、実施する。感覚統合療法や微細運動、ADLの獲得支援が中心になる。
評価ツールはJMAP(日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査)やSP感覚プロファイル、JSI-Rなどが使われるケースが多い。病院の回復期でFIMやBarthel Indexを使ってきた経験とは異なる文脈だ。ゼロから学ぶ覚悟は要る。
児童指導員として兼務する「それ以外」の業務
施設の規模や人員配置によって、OTが「機能訓練担当者」と「児童指導員」を兼務するケースは珍しくない。送迎車の引率、宿題の見守り、おやつの準備。これらは訓練時間の外に発生する。
求人票に「OT資格を活かせます」と書いてあっても、実態は「OTが児童指導員として週4日、機能訓練は週1日」という現場もある。入職後に「聞いていなかった」とならないために、この点は採用面接で必ず確認したい。
病院勤務との違いを構造で理解する
病院の回復期では、1日に複数人のセラピーを担当し、カンファレンスで多職種と方針を合わせながら働く。制度上、医師の指示のもとで動く構造だ。
放デイは違う。医師が常駐しない。OTが自ら評価し、保護者に説明し、支援計画を立てる。裁量が大きいぶん、よりどころとなる臨床的フィードバックを得にくい環境でもある。「自分で判断する力」と「自分で学び続ける意志」の両方が問われる。
メリット——何が得られるのか
タイムスケジュールが読める労働環境
放デイの開所は通常、学校が終わってから夜にかけてだ。平日の昼間は個別訓練の準備、午後から子どもが来所する。夜間の急変対応は基本的にない。土日は開所している施設も多いが、平日に休みが取れるシフト制になっているケースが多い。
病院の回復期で「今日も残業で19時を回った」という生活が続いているなら、勤務時間の見通しが立ちやすくなることは確かだ。
発達障害領域の専門スキルが蓄積する
感覚統合、姿勢保持、視知覚、実行機能。これらは病院の成人リハでは扱いが薄い領域だ。放デイで集中して経験を積めば、SI(感覚統合)認定セラピストや発達障害支援士などの資格取得ルートにもつながる。
2024年報酬改定で放デイは「総合支援型」と「特定プログラム特化型」に再編された。感覚統合に特化した施設であれば、より深い専門性を積める環境が整いつつある。
子どもと家族の「時間軸」に関われる
放デイでは、子どもを数年単位で継続的に支援する。半年後に「鉛筆が持てるようになった」という報告を保護者から受ける。1年後、小学校の通常学級で過ごせるようになったと連絡が来る。
病院のリハビリでは、退院と同時に関係が終わる。放デイでは、成長の経過に伴走できる。その感触は、病院勤務では手に入らないものだ。
デメリット——何を失うリスクがあるのか
給与水準は病院より低くなるケースが多い
OTの全国平均年収は約444万円(病院・クリニック勤務ベース)。対して放デイでのOT月給は約24.7万円が実績ベースの水準で、年収換算で296〜350万円程度になるケースが多い。差は年間100万円規模になり得る。
福祉・介護系の事業所は介護報酬や障害福祉サービス等報酬の制度に縛られる。処遇改善加算や特定処遇改善加算の取得状況によって給与設計は変わるが、病院と同水準を目指すのは難しい現実がある。
OT一人職場によるスキル停滞リスク
規模の小さい放デイでは、OTがその施設に1人というケースは珍しくない。先輩OTに症例を見せてもらう機会も、ピアレビューも存在しない。自分の評価や判断が適切かどうかを問い直す場がない。
学術研究や他施設のOTと意図的につながらなければ、3年後も同じ引き出しで働いているという状況になりやすい。スキルの停滞は、本人が気づきにくいまま進む。
キャリアパスが見えにくい
病院には「主任OT→副技師長→技師長」という職位の流れがある。放デイの場合、「施設長」か「現場スタッフ」かの二択になりがちで、専門職としての上位ポジションが制度化されていない施設が多い。
「5年後にどうなっていたいか」という問いへの答えを、自分で設計しなければならない。それを負担に感じるか、自由に感じるかは、人によって異なる。
向いている人・向いていない人
放デイで力を発揮しやすいOTの特徴
子どもの行動を観察することに飽きない人。「なぜこの子は上手に椅子に座れないのか」を感覚的・神経学的に考え続けられる人。保護者と長期的な信頼関係を構築することに意欲がある人。
加えて、自分で勉強会に参加したり、文献を読んだりする習慣がある人。放デイはOTが孤立しやすい環境だ。自律的に学べる人でないと、数年後に「何も変わっていない」という状態に陥る。
入る前に確認すべき自分の状態
今、病院に残っている理由が「転職が怖いから」だとしたら、放デイでも同じ思考パターンが続く可能性が高い。
逆に、「発達障害の子どもへの支援を専門にしたい」という方向性が明確なら、放デイは最短でそのスキルを積める場所になる。動機の純度を確認することが先だ。
転職前に確認すべき5つのポイント
施設のOTへの期待を求人票の裏側で確かめる
求人票に「OT資格を活かせます」と書いてあるだけでは不十分だ。面接で必ず確認したいのは以下の点。
- 機能訓練の時間は週何コマか
- OTが担当する「機能訓練以外」の業務内容は何か
- 個別支援計画の作成にどれだけ関与できるか
文言ではなく、実際のタイムテーブルを見せてもらうのが確実だ。
加算取得状況と給与の設計を読む
給与を決める要素として、処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の取得状況は必ず確認する。加算を取得していない施設は、構造的に給与を上げにくい。
また、「基本給」と「諸手当込みの月給」の内訳も確認する。手当が多い設計の場合、勤続年数で上げにくい給与体系になっているケースがある。
自分の学習環境を自分で設計できるか確認する
OT一人職場になる場合、スーパーバイズを受ける機会は制度上用意されていない。そのため、入職前に以下を確認する。
- 外部の自費研修への参加を支援する制度があるか
- 学会や勉強会への参加は業務扱いか自費か
- 同じ法人に他施設のOTがいるか
「施設が用意してくれるもの」を待っていては、スキルが止まる。自分で学習環境を設計できるかどうかが、3年後の自分を決める。
放デイへの転職で迷っているなら、それは覚悟の問題ではない。「自分に合っているかどうか」を判断できる情報が揃っていなかっただけだ。給与・専門性・キャリアパス、それぞれに構造的な背景がある。その構造を理解した上で動けば、入職後の「こんなはずじゃなかった」は減らせる。
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