「言われたことだけやる人」が生まれる組織の構造——医療・介護現場で見た3つのパターン

組織・マネジメント

「うちのスタッフは、言われたことしかやらないんです」

管理職研修の場でこの言葉を聞く頻度は、年々増えている。PT・OT・STの管理職だけでなく、介護事業所の施設長や病院の看護師長からも、同じ訴えが出てくる。

「自分から動いてほしい」「考えて仕事してほしい」という要望に対して、スタッフは変わらない。そして管理職は、もっと細かく指示を出すか、もっと強く言うか、どちらかに向かう。

これが、間違いの始まりだ。

「言われたことしかやらない人」が複数いる職場には、個人の意欲の問題ではなく、組織の構造の問題がある。構造を変えずに人を変えようとすると、関係性が悪化するだけで何も変わらない。

「言われたことしかやらない」はなぜ起きるのか

まず確認したいのは、この状態が「結果」だということだ。

スタッフが主体的に動かなくなる前には、必ず何かが起きている。採用直後から「言われたことしかやらない人」はいない。ほとんどの場合、入職時には期待を持って仕事を始めている。

それが変わっていくのには、理由がある。医療・介護の現場で見てきたパターンを整理すると、大きく3つの構造が関わっている。

構造1:意見を出した人が損をしてきた

「やり方を変えたい」と声を上げたスタッフが、却下されたり無視されたりする経験を繰り返すと、何が起きるか。

次第に、意見を出さなくなる。言っても変わらないなら、言うだけ消耗だ。黙って従った方が楽だ。

この状態は、意欲の低下ではない。学習した反応だ。

「言っても無駄」という認識は、過去の経験から学んだ合理的な判断だ。部下が意見を出さないとき、その組織の中で意見を出すことが報われなかった歴史がある。

問題は、管理職にその自覚がないことだ。「却下した」という認識すらなく、単に「進めなかった」だけかもしれない。でも、意見を出したスタッフから見れば、無視と却下は同じだ。

構造2:上が全部決めてきた歴史がある

「自分で考えて動いてほしい」と言いながら、全てのことを管理職が決めている組織がある。

ケアの方針も、シフトの調整も、患者家族への対応方針も。細部まで上が決める文化の中では、スタッフは「決める必要がない存在」として機能する。

この状態が数年続くと、スタッフは判断することをやめる。判断しようとすると、後から修正が入る。それが繰り返されると、最初から判断しない方が効率的だと学習する。

これは、能力の問題ではない。判断する経験を積めない環境が、判断する力を使わなくさせている。

「なぜ自分で考えないのか」という問いは、自転車の練習をさせてこなかった側が「なぜ乗れないのか」と問うのと同じ構造だ。

構造3:指示が細かすぎて考える余白がない

「失敗させたくない」「クオリティを保ちたい」という善意から、管理職は指示を細かくする。

手順書を整備する。マニュアルを充実させる。「こうしなさい」「ああしなさい」という指示を積み重ねる。

結果として、スタッフには「考える必要のない仕事」だけが残る。

ここで起きることを正確に言えば、「考えないスタッフ」が生まれているのではない。「考えなくてもいい仕事」が設計されている。

指示が緻密なほど、判断の余白は消える。余白がなければ、人は考えない。これは人の問題ではなく、仕事の設計の問題だ。

「もっとしっかり管理しよう」が逆効果になる理由

この3つの構造を理解すると、よくある対応が逆効果になる理由が見えてくる。

「もっと細かく指示を出そう」は、構造3をさらに強化する。余白がさらに消える。

「なぜ動かないのか、もっと強く言おう」は、構造1をさらに強化する。意見を出すことへのリスクをさらに高める。

「自分でやった方が早いから、自分でやろう」は、構造2をさらに強化する。判断の機会がさらに減る。

善意の行動が、「言われたことしかやらない」構造を深める。がんばればがんばるほど、状況が悪化する。この逆説の中で、管理職は消耗していく。

構造を変える3つの視点

構造の問題なら、変えるのも構造だ。具体的には、次の3点を変える。

意見を出すコストを下げる

意見を出したスタッフに対して、たとえ採用しない場合でも「検討した」という事実を返す。「今回は難しい。理由はこうだ」という一言だけで、意見を出すことのコストは下がる。黙殺と明確な却下は、スタッフにとってまったく違う体験だ。

決めない領域を明示する

全部決めるのをやめるのではなく、「ここは自分で決めていい」という領域を設計する。「ケアの細かい順序は各自の判断でよい」「家族対応の文言は担当者が作っていい」など、小さな範囲でよい。決めていい領域が存在するだけで、判断する経験が生まれる。

指示を減らし、目的を増やす

「こうしなさい」という指示を、「これを達成してほしい」という目的に切り替える。目的だけが伝わっていれば、手段はスタッフが考える。手段を考える経験が、主体性の土台になる。

ただし、この変化には時間がかかる。構造が変わった後も、スタッフがそれに気づいて動き始めるまでに、数週間から数ヶ月かかることがある。

構造の変化は小さなやりとりから始まる

「言われたことしかやらない」状態は、一つの大きな出来事で作られたのではない。小さなやりとりの積み重ねで作られている。

逆に言えば、構造も小さなやりとりから変えられる。

部下が意見を出した次の場面で、どう応答するか。管理職が全部決める場面で、一度だけ「どう思う?」と問うか。マニュアルを渡す代わりに「どうすればいいと思う?」から始めるか。

大きな制度改革より、日常の一場面の方が、組織の構造を変える力を持っている。

「言われたことしかやらない人」に悩んでいるなら、まず一つ問いを変える。

「なぜこのスタッフは動かないのか」ではなく、「この組織の中で、動くと何が起きるのか」と。

問いが変わると、見えるものが変わる。

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