言語聴覚士がオンライン副業を始める方法|自費サービスの料金設定と注意点

資格の活かし方

言語聴覚士がオンライン副業を始める方法|自費サービスの料金設定と注意点

退勤後、スマホで「ST 副業」と検索しながら、どこから手をつければいいかわからなかった。そんな夜は一度や二度ではないはずだ。

言語聴覚士がオンラインで副業を始めたいと考えたとき、ぶつかるのは情報の少なさと、法律への不安だ。「STの資格でオンラインで何かできるのか」「就業規則に引っかからないか」「そもそも集客できるのか」。疑問が連なって、結局何もしないまま時間が過ぎていく。

この記事では、言語聴覚士がオンライン副業を始めるうえで必要な知識を整理する。提供できるサービスの法律的な整理、料金設定の現実、プラットフォームの選び方、そして見落としがちな就業規則と税務の確認まで、一記事で網羅した。


STがオンラインで提供できるサービスは何か

医師の指示なしに行える訓練と、指示が必要な訓練の線引き

言語聴覚士が自費で提供できるサービスには、法律上の明確な線引きがある。

医師の指示なしに行えるのは、構音訓練・言語訓練・吃音への支援・声の相談などだ。これらは「支援」「相談」として設計するかぎり、個人でオンライン提供できる。

一方、嚥下訓練・聴力検査・補聴器装用訓練は医師の指示が必要になる。これらを自費の個人サービスとして提供することは、現状の制度上、適切ではない。

もうひとつ注意が必要なのは混合診療の禁止だ。勤務先の保険診療と、個人の自費サービスを時間・会計の両面で完全に分離しなければならない。同じ利用者に対して、職場での保険診療と自費の個人セッションを組み合わせることは認められていない。

「支援」「相談」として設計することが、オンライン副業の基本的な枠組みになる。

実際に個人STが提供しているサービス4類型

現在、個人で活動するSTが提供しているサービスは大きく4つに分類できる。

1. 発達言語支援
ことばの遅れが気になる子どもの保護者向けに、オンラインで関わり方の相談や言語刺激の方法を伝える。保護者への説明や家庭でできる関わりを支援する形態が多い。

2. 成人言語相談
失語症・構音障害などの当事者や家族向けに、練習方法の提案や日常コミュニケーションのアドバイスを行う。直接介入ではなく、相談・コーチング形式で設計する。

3. 吃音・声の悩み相談
吃音のある成人や、声の使い方に悩む教師・営業職などを対象にした相談サービス。自助的な取り組みをサポートする形が主流だ。

4. 保護者コーチング
ことばの発達に不安を持つ保護者を対象に、家庭での関わり方をオンラインでコーチングする。STの専門知識を「教える」のではなく「伴走する」形で届ける。

オンラインでは難しいもの:正直な整理

オンラインで提供しにくいサービスについても、正直に整理しておく。

嚥下の直接訓練は、オンラインでの実施は物理的にも法律的にも困難だ。補聴器の調整も同様で、対面・機器が必須になる。聴力検査もオンラインでは精度が担保できない。

「オンラインでできること」と「できないこと」を自分の中で整理してからサービスを設計すると、後々のトラブルを防ぐことができる。


収益モデルと料金設定の現実

自費サービスの料金相場と設定の考え方

個人STの自費サービスの料金相場は、おおよそ以下の水準で推移している。

  • 30分セッション:2,200円〜
  • 60分セッション:8,000円〜15,000円
  • セミナー講師(1回):10万〜30万円

料金設定で迷いやすいのは「安くしなければ集客できないのでは」という思い込みだ。しかし、専門職のオンラインサービスにおいて、低価格はかならずしも有利に働かない。

設定の考え方として参考になるのは「1時間あたりの職場の時給換算」だ。時給換算した勤務収入より低い価格で副業するのは、労力に見合わない。専門性に見合った価格を設定することが、長く続けるための前提になる。

月収のリアルな試算

週末2日、1日3コマ、60分8,000円で提供した場合の月収の上限は以下になる。

  • 2日 × 3コマ × 8,000円 = 月収48,000円(満席の場合)

ただし、これは満席が続いた場合の数字だ。副業を始めてから最初の3ヶ月は、予約がほとんど入らない時期が続くのが一般的だ。SNS発信や口コミが効いてくるまでには時間がかかる。

最初の3ヶ月の現実的な目標は「月1〜3件の予約が入れば十分」くらいに設定しておくほうが、継続につながる。

単発相談以外に収益を広げる選択肢

1対1のセッションは時間の上限がある。収益の天井を上げるには、以下のような展開が有効だ。

教材販売:発達相談のノウハウをPDF教材や動画にまとめて販売する。一度作ればストック型の収益になる。

オンライン講座:STの専門知識をベースに、保護者や介護者向けの講座を設計する。複数人への提供になるため、時間単価が上がる。

監修・執筆:ウェブメディアや企業のコンテンツ監修。単価は高いが、依頼が来るまでに実績の積み上げが必要だ。

実際にSTとして個人活動している方の収益モデルとして参考になるのは、教材販売・相談・執筆の比率がおおよそ5:2:1という構成だ(寺田奈々氏のnote等より)。最初から1対1の相談だけに頼らず、複数の収益源を組み合わせる設計を意識しておきたい。


どのプラットフォームから始めるか

プラットフォーム比較

主要なプラットフォームの特徴を整理する。

プラットフォーム 特徴 向いているサービス
ストアカ 集客機能あり・手数料20〜40% セミナー・グループ講座
ランサーズ 案件単位での受注 教材制作・監修・ライティング
ココナラ 個人サービスの販売 1対1相談・添削
自前LP 手数料ゼロ・構築に時間がかかる 継続サービス・高単価セッション

最初の一歩として最もハードルが低いのはストアカかココナラだ。登録して掲載するだけで、プラットフォームに来訪したユーザーに見てもらえる。自前LPは集客力がゼロからのスタートになるため、ある程度SNSやプラットフォームで実績を積んでから検討するのが現実的だ。

SNSと口コミで最初の3人を集める手順

最初の3人を獲得するまでのステップを整理する。

Step 1:専門テーマを1つに絞って発信を始める
「吃音のある大人へのオンライン相談」「ことばの遅れが気になる保護者向けサポート」など、ターゲットを絞ったテーマで発信する。Instagram・X・noteが主な発信の場になる。

Step 2:10本のコンテンツを先に積む
告知をする前に、専門テーマに関する発信を10本以上積む。読者が「この人は詳しそうだ」と判断できる蓄積が必要だ。最初の1本目から予約受付の告知をしても、反応は得にくい。

Step 3:知り合いへの直接告知
SNSで発信しながら、職場や学会でつながりのある人に直接「こういうサービスを始めました」と伝える。最初の予約は、見知らぬ人ではなく知人経由から入ることが多い。

ビデオ通話ツールと決済の最低限の環境構築

副業を始めるにあたって最低限必要なツールは以下だ。

ビデオ通話:ZoomまたはGoogle Meet(無料プランで十分)
日程調整:Calendly(無料プランあり)
決済:Square・Stripe・PayPay(予約完了後に請求リンクを送る方法が主流)
資料共有:GoogleドライブまたはNotionで十分対応できる

スタート段階では、複雑なシステムは不要だ。「Zoom + PayPay請求リンク」でも十分に運営できる。


法律・就業規則・税務の確認事項

医療法・医師法との関係を整理する

自費のオンラインサービスを設計する際、以下の表現は使用しないことが鉄則だ。

  • 「治療」「治す」「診療」
  • 「〇〇症に効果があります」
  • 「診療所」「クリニック」

これらの表現を使うと、医療法上の「医業」に抵触するリスクが生じる。サービスの説明文には「支援」「相談」「コーチング」「練習のサポート」といった言葉を使う。

「支援」「相談」として設計することは、法的なリスクを下げると同時に、届けたい相手にも伝わりやすい言葉選びにつながる。

勤務先の就業規則と副業申告

副業を始める前に、必ず勤務先の就業規則を確認することが必要だ。

公務員(保健センター・特別支援学校など勤務):地方公務員法により、原則として副業は禁止されている。ただし、一部の自治体では「社会貢献活動」として申請・許可される場合もある。必ず所属先の担当部署に確認すること。

民間病院・クリニック・施設勤務:就業規則で副業の可否が定められている。「許可制」「届出制」「禁止」のいずれかになっているはずだ。規則を確認し、必要であれば事前に申請する。

就業規則の確認なしに副業を始めると、後から問題になることがある。手間がかかっても、着手前に確認することが最善だ。

年間20万円超えたら確定申告

副業の収入が年間20万円を超えた場合、確定申告が必要になる。

申告漏れを防ぐために、最初から収支を記録しておくことを勧める。使えるアプリは「マネーフォワード クラウド確定申告」「freee」などが主流だ。

経費として計上できるものの例:

  • PC・タブレット(業務で使う割合に応じて)
  • ZoomなどのサブスクリプションFee
  • 関連書籍・セミナー参加費
  • 自宅で業務をする場合の家賃・光熱費(按分)

副業を始めた年は、確定申告が初めてという方も多い。税務署の無料相談窓口や、国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用すると、一通りの手続きを確認できる。


最初の一歩を踏み出す前に確認する3つのこと

「何が得意か」ではなく「誰に届けたいか」から設計する

サービスを設計するとき、「自分に何ができるか」から考えると行き詰まりやすい。STとしての専門知識はひとまず置いて、「どんな人の、どんな困りごとに応えたいか」から考えてみる。

たとえば「吃音のある社会人が、職場でのコミュニケーションに困っている」という具体的な像が見えたとき、必要なサービスの形が自然に決まる。

誰に届けたいかが明確なほど、発信の言葉が具体的になる。「STによるオンライン相談」より「吃音のある社会人のための、職場コミュニケーション相談」のほうが、刺さる相手に届く。

副業を「実験」として位置づける期間設定

最初の3〜6ヶ月は、収益目標を置かないことを勧める。

この期間は「どんな人が来るか」「どんな相談が多いか」「自分にとって無理なく続けられる頻度はどこか」を確かめる実験期間だ。収益が出なくても、それは失敗ではない。実験として積み上げた知見が、次のサービス設計につながる。

月に1人でも2人でも、実際に相談に来た人の声を聞いた経験が、副業を続けていくうえでの一番の財産になる。

構造的に見れば、STが副業を始めにくい理由は「STとしての情報が少ない」という環境の問題でもある。情報が少ない中で動けていないのは、意欲の問題ではなく、手がかりがなかっただけだ。


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