患者さんに感謝されるほど、何かがすり減っていく

リハビリ職の本音

「先生、本当にありがとうございました」。退院の日にそう言われた瞬間、何かが少しずつ消えていく感覚があった。

喜びはある。それは確かだ。だが同時に、自分の中の何かが返ってこないまま流れていく感触があった。

この二つが同時に来ることを、多くのリハ職は誰にも言えない。感謝されているのに消耗するなんておかしい、と自分で打ち消してしまうからだ。

感謝と消耗は、矛盾しない

「感謝されて消耗する」という感覚に、罪悪感を持つ必要はない。この二つは矛盾しておらず、同じ一つの仕事から生まれている。

リハビリという仕事は、患者の回復に全力で向き合うことを要求する。関係を築き、信頼を積み上げ、感情を注ぎ込む。その結果として感謝が返ってくる。つまり、感謝が多いということは、それだけ多くを注いできた証明だ。

感謝と消耗は比例する。これは構造の問題であり、本人の弱さや能力の問題ではない。

注ぎ込んだものが補充される仕組みが、多くの職場環境には存在しない。給与は固定で、休憩時間は削られ、次の患者がすでに待っている。感謝という形で返ってくるものはある。だが、注いだエネルギーや時間が物理的に戻ることはない。

「やりがいがあるから続けられる」の危うさ

医療・福祉の現場では「やりがいがあるから多少のつらさは我慢できる」という言葉をよく聞く。これは一面では正しい。ただ、やりがいを理由に消耗を正当化することが習慣になると、自分の状態を客観的に見る力が鈍る。

「まだ大丈夫」と言い続けた結果、気づいたときには長い休養が必要な状態になっていることがある。感謝される仕事であるほど、消耗のサインを意識的に確認する必要がある。

感謝されていることと、持続可能な状態で働けていることは、別の問題だ。前者が後者を担保しない。この二つを混同したまま働き続けることが、消耗の蓄積を加速させる。

リハ職の養成が作る「消耗耐性」という刷り込み

リハビリ職の養成課程では、患者中心の考え方が繰り返し強調される。患者の目標を最優先にすること、その人の生活を想像すること、諦めないこと。これらは正しい原則だ。

ただ、その強調が「自分が削れても患者のために」という形で内面化されていることがある。結果として、消耗を感じても「それが仕事だ」と飲み込む習慣が身につく。

消耗を感じた時点で、自分を責める理由はない。感謝されることへの喜びと、削れていく感覚の両方が本物だ。どちらかを打ち消すのではなく、両方が同時にあると認識することが出発点になる。

何が削れているのかを特定する

「疲れた」では解像度が低い。消耗の正体を特定することが、次の一手を決める前提になる。

時間が削れているなら、業務量と構造の問題だ。業務量を減らすか、担当を分担することで変わる可能性がある。気力が削れているなら、回復の機会が設計されていない問題だ。休息の取り方と量を見直す必要がある。

「自分はなぜこの仕事をしているのか」という問いに答えられなくなってきたなら、仕事の意味が見えなくなり始めているサインだ。業務量を減らしても、この問題は解決しない。

これらは別々の問題であり、対処法が異なる。削れているものに正確に名前をつけることが、有効な対処への入口になる。

消耗が続く職場を変えることは、逃げではない

消耗が続く職場にとどまることを「根性」と呼ぶ文化が、医療・福祉分野にはある気がしている。一時的な困難を乗り越える力は必要だ。しかし、構造的な消耗を意志力で補い続けることは根性ではなく、消耗の加速だ。

水が抜け続けるバケツに、水を注ぎ足し続けることはできない。バケツの穴を塞がなければ、いずれ空になる。

環境を変えることを考え始めたとき、「逃げている」という自己批判が出やすい。だが、消耗する構造の中に居続けることが患者に提供できるケアの質を下げるなら、それを変えることは専門職としての判断だ。

資格の外側には、消耗のサイクルから外れた働き方がある。産業保健、訪問リハビリ、企業のウェルネス領域、教育分野。同じ専門性を使いながら、注いだものが返ってくる仕組みを持った場所が存在する。

この感覚を持っている人が変化を起こせる

「感謝されるほど消耗する」という感覚を持っている人は、すでに自分の状態を正確に見ている。これは弱さではなく、自己認識の精度の高さだ。

自分の状態が見えていない人間は、問いを立てられない。問いを立てられない人間は、変化を起こせない。「このまま続けるのか」「何かを変えるべきか」という問いを持っていること自体が、次の一手を打てる位置にあることを意味する。

この感覚を持て余している段階で、一人で結論を出す必要はない。消耗のパターンを整理して、選択肢を知ることが先だ。

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