「この患者さんが何となく怖い」と、新人の看護師から相談が来た。
自分はそれを15分で解体した。骨折後の疼痛回避行動が、どう姿勢の非対称性として現れているか。廊下を歩くとき右肩が落ちるのは、重力に抵抗する代償の積み重ねだと説明した。「だから怖く見えてたんですね」と返ってきた瞬間、自分が何をしていたかに気づいた。
それは「説明」ではなく、「構造の解体」だった。
コンサルタントは、何を売っているのか
コンサルティングの仕事は問題解決だと思われがちだ。実際には違う。コンサルタントが売っているのは「構造を見せること」だ。
経営者は「売上が落ちている」と感じている。しかし原因はわからない。コンサルタントはその「わからない」を、チャネル別・顧客セグメント別・競合比較で分解し、因果関係を可視化する。見えなかったものが見える状態にする。それに対して報酬が発生する。
リハ職が「歩行が不安定」を分析するとき、やっていることは同じだ。関節可動域の制限、筋力の左右差、感覚入力の低下、恐怖による回避行動。これらを統合して「だからこの歩き方になっている」という因果構造を組み立てる。相手が理解できる言葉でそれを伝える。
構造は同じだ。領域が違うだけだ。
「伝わる説明」ができるリハ職は少数派だ
リハビリ職の説明力は、経験年数と必ずしも比例しない。臨床経験が10年あっても、患者に本当に伝わる説明ができていない人は珍しくない。
なぜか。臨床の現場では「伝わったかどうか」のフィードバックが曖昧だからだ。患者は「わかりました」と答える。しかし本当に理解しているかを確認する仕組みが、多くの病院には存在しない。翌日、同じ動作の誤りが繰り返されても「説明が伝わっていなかった」と気づかないまま終わることが多い。
コンサルティングの現場では逆だ。説明が伝わらなければ、クライアントは提案を採択しない。報酬が発生しない。「伝わったかどうか」が直接、成果に結びつく。
この構造の違いが、説明力の成長速度に差を生む。フィードバックがない環境では、スキルは鍛えられにくい。臨床の中で説明力が磨かれてきた人は、それを意識的にやってきた人だ。無意識にやってきたなら、それはまだスキルとして言語化されていない。
「説明する力」を言語化できるか
自分がどんな説明をしているのかを、言語化できるリハ職は少ない。
「患者さんに合わせて話しています」「なるべくわかりやすくしています」と返ってくる。それは「説明している」という事実の記述であって、「何をどうやっているか」の言語化ではない。
コンサルティング業界が説明力を言語化するとき、次のように分解する。
①イシューの設定:「何が問題か」を一文で定義する。②現状の構造化:問題を構成する要素に分解する。③因果の仮説:「なぜそうなっているか」を関係性で記述する。④相手の言葉で翻訳:専門用語を相手の日常語に変換する。
リハ職の説明も、この4ステップで動いている。「なぜこのリハビリが必要か」を患者に説明するとき、①問題は転倒リスク、②骨盤前傾と大腿四頭筋の筋力低下、③その結果として膝の安定性が低下している、④「立ち上がるときに膝がガクッとなる理由がそこにある」——この構造だ。
やっていることは同じだ。ただ、多くのリハ職がそれを「スキル」として認識していない。認識していないスキルは、伝えることができない。伝えられないスキルは、転職市場では存在しないのと同じだ。
なぜこのスキルが他業界で評価されるのか
リハビリ職が転職市場で評価されにくいとされる理由に、「専門スキルが他業界に転用できない」という認識がある。これは半分正しく、半分間違っている。
資格に紐づいた技術(徒手療法や評価ツールの使用など)は確かに転用しにくい。しかしリハビリの過程で磨かれた「構造を解体して伝える力」は、どの業界でも機能する。
医療機器メーカーの営業では、医師や看護師に対して製品の作用機序を説明する。相手は専門家だが、領域が違う。「専門家に対して、異なる領域の情報を整理して伝える」経験は、リハ職が日常的にやっていることだ。
ヘルスケアスタートアップのカスタマーサクセス職では、サービスの活用方法を顧客に伝える。課題を特定し、解決策を提示し、相手の行動変容を促す。これもリハのアプローチと構造が同じだ。
コンサルティングファームがリハ職を直接採用するケースは稀だが、「医療×説明力×構造化思考」を持つ人材は、プロセスコンサルやヘルスケア分野のポジションで確実に需要がある。求人票の言葉は違っても、求められているスキルの核心は一致している。
スキルとして認識するための言葉の変換
このスキルを転職市場で機能させるには、「経験を説明できる言葉」に変換する必要がある。
「患者への説明が得意です」では、採用担当者には届かない。次のように変換する。
変換前:「患者さんやご家族に病状やリハの目的を説明していました」
変換後:「専門知識を持たない患者・家族に対し、複雑な身体機能の問題を因果構造で整理し、日常語で再構築して伝える業務を日常的に行っていました。高齢患者に対しては理解度を確認しながら説明を調整するプロセスを繰り返し、翌日の動作変化で効果を検証してきました」
後者には「何を」「どのように」「なぜ」が含まれている。それがスキルの言語化だ。「経験してきた」ではなく「何ができるか」に変換する作業が、転職活動では必要になる。採用担当者が評価するのは経験の量ではなく、経験から何を引き出せるかだ。
「伝える力」は意識的に鍛えられる
このスキルは、今の臨床の中で意識的に磨くことができる。
患者への説明の後、「今日の説明で相手に何が伝わったか」を自分で振り返る。「わかりました」という返答ではなく、相手が実際に言葉にしたことを記録する。「ここが難しかった」「この言い方で伝わった」を積み上げていくと、自分の説明パターンが見えてくる。
もう一つは、説明した内容をテキストで書いてみることだ。口頭では何となく伝わっていたものが、文字にすると曖昧さが浮かび上がる。「なんとなく」「大体こんな感じ」という言葉が出てきたら、そこが言語化されていない箇所だ。
コンサルタントが議事録や提案書を書き続けることで説明力を磨くように、リハ職も「書くこと」で説明の精度を上げられる。SOAP記録を丁寧に書くことも、客観化の訓練になる。「なぜこのアプローチを選んだか」をAssessment欄に書き切れるなら、それはすでに構造化思考の実践だ。
臨床で積み上げた「説明する力」は、すでにある。それをスキルとして認識し、言葉にできるかどうかが、次のキャリアへの扉を開くかどうかを分ける。
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